翻刻
の恨おもひ知れと。柄も通れ。拳も通れと刺通され。
あつといふと立上るを。返す刀に首打落せは。酔潰(ゑひつぶ)
れたる従者ども。此躰を見て肝を潰し。上を下へと
狼狽す。二人の童子は透間もなく四才八面を切て廻り
悉く切殺し。本望を遂たるを一局(ひとくだり)とす
○又鐘魔といふ狂言あり是は謡曲(うたひ)の道成寺に似
たり。中城(なかくすく)の姑場村(こしやうそん)といふ所の農家(ひやくせう)に。陶姓なる
者あり。一子を松寿と名付く。齢まさに十五歳。
誠に端麗の美少年なり此国の都。首里に師あ
りて。常に徃通ひ□業(きやう)を□□り。一日/浦添(うらそへ)の山径(やまみち)
にをりける時。日暮に及ひて路を失ひ。とさまかうさ
まに踏迷ふ程に。次第に昏黒(くらやみ)になりてあいろも
分ず。小竹を折て杖となし。其■に此■よとたどり
しがほのかに火影の見えければ松寿そゞろ嬉し
くて火影を便りに路をとり。辛うして其家□□□。
一チ夜の宿りを求めける。此家の主は猟人にて。一人の
娘を持てり。山家には生立(おいたて)とも。天姓の嬌態あやしき
まてにあてやかなり。年わつかに十六歳此■■は猟
に出只一人留主居してありけるが。門に人のお□なひして
知ぬ山路にさまよひたる者にて何とふ情に御宿たまは
りたしと。いふ■声もかきくれたり。娘いたはしくは思ひけれ
とも。折ふし父の留主といひ。心一ツに定めかねしが□だ
いはけなき人といひ殊さら信したる人もなけれは。さまで
に父のとかめもあらじと門の戸開きて庵にともなひ彼是
いたはりもてなせしが。松寿が姿のいつくしきに心ときめき
事に触て挑(いどみ)けれとも松寿もとより物賢き生れにて
いさゝかもうけむかず□□もやらず□し居たり。娘思ひ
にせまりてやひし〳〵と抱き付ば。松寿驚き。衣を振ふて
起上る。娘今は恨のあまり。難面(つれなき)人を生しは置じ。同じ
冥途へともなはんと。道具を取て飛懸る。松寿は魂(たましい)の天に
飛夢路をたどる心地して。足を空に迯出すを何国まで
も登□来る。其早き事飛鳥の如し松寿やう〳〵迯
延て此山の曲にある万寿寺といふ寺に駈入しか〳〵の由
を物語れは住持普徳といふ僧は。行徳いみしく。才覚
ある僧なりければ。すなはち松寿を鐘楼へともなひ。大鐘
の内に伏しめ三人の従弟をして。其■辺を看守し