翻刻
【枠外】
広益秘事大全
【右丁頭書】
されども火事(くわじ)の時 此穴(このあな)をぬる
ことを忘(わす)るべからず
○火事(くわじ)の用心(ようじん)に常(つね)に泥(どろ)をた
くはへおくべし瓶(かめ)入ればよけれ
ども俄(にはか)なる時にもちあつかひにく
し又 費(つひえ)も多(おほ)くかゝるなれば酒樽(さかだる)
の四斗桶(しとおけ)に入おくもよし口(くち)まで
つめおけば長(なが)くもつもの也さて
【挿絵】
【左丁頭書】
事(こと)に臨(のぞ)みて輪(わ)を切(きり)はなせば桶(をけ)
くだけて泥(どろ)早(はや)くいづる也これにす
さを合せて少しかたきほどにして
ひたもの土蔵(とざう)の戸窓(とまど)をぬるべし
かたきほどならねば土(つち)すべり落(おち)て
ぬり付がたきもの也此土 寒(さふ)き国(くに)
にては冬(ふゆ)は氷(こう)りて用(よう)に立(たち)がたし
土をふかくほり水ぬきをつけて
かり屋根(やね)をこしらへ貯(たくは)へおくべし
○蔵(くら)はねりへい蔵を第一(だいゝち)とす
べし見くるしけれど火の入ると
いふ事さらになし柱(はしら)なしに土ばか
りにて築上(つきあげ)たる物にて灰小屋(はひこや)
のごとき物なり下(した)に一尺ほど石(いし)
瓦(かはら)の類(たぐひ)にて台(だひ)をつきあげそれ
より段々(だん〳〵)上(うへ)へ築上(つきあぐ)るなり一段
づゝにて上に苫(とま)をおほひおきよく
【右丁本文】
きを覚(おほ)えざるべし熱(あつ)きを覚(おぼ)ゆれば毒(どく)浅(あさ)くなり
たる也ひたものひたして堪(たへ)がたきほどにして止(やむ)
べし其後に雄黄(はわう)五霊脂(ごれいし)を粉(こ)となし馬歯莧(すべりひゆ)
のしぼり汁にてとき瘡口(きずぐち)をよけてまはりにぬり
上をつゝみおくべし又右の二味を酒(さけ)にて酔(ゑふ)ほどに
内服(ないふく)すべしいつれの薬(くすり)を用ひたる後にても
酒(さけ)を酔(ゑふ)ほどにのみてよし
又 急(きふ)なる時は烟管(きせる)を火にて焼(やき)やにのわき流(なが)るゝ
を直(すぐ)にきずの上にそゝぎかけて熱(あつ)きを忍(しの)ぶべし
多(おほ)くかくるほどよし
○蜂(はち)に螫(さゝ)れたる薬
一 蜂(はち)にさゝれたるは明礬(みやうばん)を生(なま)の天南星(てんなんしやう)の汁
へいれてあらふべし又 葱(ねぎ)の白根(しろね)を敷(しき)て灸(きう)を
【左丁本文】
するもよし又 朝貌(あさがほ)の葉(は)蒼茸(をなもみ)の葉(は)蓼(たで)の葉
薄荷(はくか)の葉 山椒(さんしやう)の葉などすり付るみな妙なり
塩(しほ)をぬり熱湯(あつゆ)にひたすなどもよし
○毛虫(けむし)にさゝれたる薬
一 伏龍肝(ふくりうかん)《割書:竈(かま)の下(した)の|やけ土なり》を水にてつけてよし馬歯莧(すべりひゆ)
をつきて付るもよしその外 藍(あゐ)の汁(しる)雪(ゆき)の下草(したぐさ)
の葉(は)の汁 呉茱茰(こしゆゆ)【左ルビ「グミ」】の葉など諸虫(しよちう)のさしたるに
つけて妙なり
○蜈蚣(むかで)にさゝれたる薬
一むかでのさしたるには鶏卵(たまご)をぬりてよしまた
蛞蝓(なめくじり)蝸牛(てゝむし)などをつぶしてぬるも妙なりまた
蒜(にゝく)蓼(たで)の葉 塩(しほ)などいづれもよろし又 蜘蛛(くも)を
とらへて瘡(きず)の處におけば蜘蛛(くも)おのづからその毒(どく)