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【右丁頭書】
萬染物之法(よろづそめもののほう)
古(いにしへ)の代(よ)には紺屋(こんや)といふもの乏(とぼ)
しかりしかば常(つね)に着(き)る衣服(いふく)な
どをも皆(みな)銘々(めいめい)の家(いへ)にて手染(てぞめ)
にしたりし也今かく太平(たいへい)久(ひさし)く
して有難(ありがた)く辱(かたしけな)き世(よ)に生(むま)れた
る人はさやうの事を心得(こゝろえ)ん物
ともおもはねど片田舎(かたいなか)の婦人(ふじん)
などは心得(こゝろえ)おきて益(えき)ある事
多(おほ)かるべし依(よつ)てそのあらまし
を左(さ)に記(しる)す
○黒染(くろぞめ)は下地(したぢ)を楊梅皮(やまもゝのかは)に
て七八へんほど返(かへ)しそめ其上
に泥(どろ)をぬりて日にほすべし
下地(したぢ)の濃(こ)きほど色(いろ)くろし
布(ぬの)壱反(いつたん)に山もゝの皮(かは)一斤半(いつきんはん)ば
【左丁頭書】
かり用ひてよし
又方 下地(したぢ)を紺色(こんいろ)によくそめ
乾(かわか)し好(よき)墨(すみ)をほどよく薄(うす)く
すりてたらひに入れ布(ぬの)をひたし
巻染(まきぞめ)にししいしを以(もつ)てよく
張(は)り日にほしてかねて濃(こ)く摺(すり)
置たる好(よき)墨(すみ)に葛(くず)のりをよき
ほどに煉(ね)りかたまりのなきやう
にして墨(すみ)にまぜ刷毛(はけ)にて
布(ぬの)のおもてにひきかわきたる時
その上に酌(しやく)にて水を多(おほ)くそゝ
ぐべし色(いろ)甚(はなは)だうるはしく
黒(くろ)くなりて他(た)の物へ墨(すみ)うつら
ず是いにしへの墨染(すみぞめ)の法なり
墨(すみ)よからねば色わろし惣(すべ)て
くろき物の糊(のり)は葛(くず)を用ゆべし
のりのあと少(すこ)しも見えず
【右丁本文】
るは世(よ)の難産(なんざん)の沙汰(さた)を聞て産婦(さんふ)みづから
心遺(こゝろづか)ひして惑(まど)へると其(その)父母(ちゝはゝ)夫(をつと)なども殊(こと)なる
一大事(いちだいじ)ぞと思ひてさま〳〵のわざくれをして
いよ〳〵産婦(さんふ)を恐(おそ)れしむるが第一(だいいち)にて次(つぎ)には
産(さん)する時 看病(かんびやう)に付たる人 或(あるひ)はとりあげ婆々(ばゝ)
などの不功者(ふこうしや)なる誤(あやまり)より難産(なんざん)にいたる事 多(おほ)し
よく〳〵意得(こゝろえ)おきて少(すこ)しも驚(おどろ)くべからずまた
少しも驚(おどろ)かすべからず懐妊(くわいにん)せし最初(はじめ)より
聊(いさゝか)もその事を心にかけず平生(へいせい)のなすべき業(わざ)
をつとめて身(み)をはたらかし心を屈(くつ)せずして臨(りん)
月(げつ)にいたるべし仮令(たとひ)一月二月 延(のぶ)る事ありとも
更(さら)に心にかけず自然(しぜん)にまかせて捨(すて)おくべし
かくのごとくする時は決(けつ)して難産(なんさん)はあるまじき也
【左丁本文】
【挿絵】
【欄外】
特1 206
【枠外】
広益秘事大全