翻刻
【右丁頭書】
下地(したぢ)を花色(はないろ)にしてそむれば
黒(くろ)くなる是(これ)鉄気水(かなけみづ)の泥(どろ)に
しむものにて珍(めづ)らしき事なし
これを弘法大師(こうぼうだいし)の利益(りやく)など
いひふらしておろかなる民(たみ)を
まどはす類 度々(たび〳〵)見聞せり決(けつ)
してだまさるべからず
○江戸茶染(えどちやぞめ)はやまもゝの皮と
はいの木の葉(は)とをせんじ五六
へんほど染(そめ)てあげさまに布(ぬの)一反(いつたん)に
明礬(みやうばん)の粉(こ)を茶一ふくほどかき
まぜ染るときは茶(ちや)の色少し
黄(き)ばみこげ色となる
○こび茶染(ちやぞめ)は下地は右に同じ
染あぐる時 緑礬(ろくばん)を茶一ふく
ほど入るゝ也又 泥(どろ)にひたしても
同じ事なれど少しよわし
【左丁頭書】
○兼房染(けんばうぞめ)はした地を濃(こ)きは
ないろにしてその上を山もゝの皮
にて三べんそめ又 藍(あゐ)にて一へん
そめ又山もゝにてそむるなり
○びろうど染は下地をこき花(はな)
いろにそめ其上をかりやすを
せんじてそむべし藍(あゐ)びろうど
ともいふ色なり
○梔子(くちなし)ぞめはくちなしの皮(かは)も
実(み)もこまかにきざみ一夜(ひとよ)水に
ひたしよくもみて後 布袋(ぬのぶくろ)に
てこし滓(かす)をさりてそめ物を
つけ一夜おきてあくる日 絞(しぼ)り
あげ糊(のり)をつけきぬのうらを日
おもてにしてほす也日によく〳〵
ほさゞれば梅雨(つゆ)のうちに色(いろ)変(へん)
じてあしくなるもの也
【右丁本分】
からもいきみて力(ちから)を添(そふ)べし介抱(かいはう)する人も
日比(ひごろ)よく〳〵心得おきて次第(しだい)を誤(あやま)るべからず
たとひ横子(よこご)逆子(さかご)等(とう)の難産に及(およ)ぶともその
法(ほう)を以(もつ)て心(こゝろ)静(しづか)に直(なほ)すときは事(こと)もなきもの
なり然るを笑止(しやうし)がほに驚(おどろ)き騒(さわ)ぎて産婦(さんふ)
をおどろかせば竟(つひ)に大事となること多(おほ)し
たゞ世上(せじやう)のいさぎよき物語(ものがたり)などして産婦(さんふ)の心
を引たて勇(いさ)め励(はげま)し其 療法(れうほう)を盡(つく)すときは
死(し)すべき命(いのち)も全(まつた)かるべし是(これ)産(さん)は病(やまひ)にあらざる
ものなれば生(いき)る方(かた)が常道(つねのみち)にして死(しす)るは変(へん)なり
この理(り)をよく〳〵思ふべしされども産(さん)の時水
まづ下(くだ)り子がへりしても隙(ひま)どるは気 血(けつ)の弱(よわ)き
ゆゑなればさやうの時は薬(くすり)を用(もちひ)て気血(きけつ)を助(たす)く
【左丁本文】
べしまた平生(へいぜい)気力(きりよく)よわき人は産(さん)の前後(ぜんご)共々
獨参湯(どくじんたう)の類を少し用ひて補(おぎな)ひ助(たす)くるもよし
生質(うまれつき)つよき人は薬(くすり)をのむべからず若(もし)医者(いしや)
を招(まね)かばかねて良医(りやうい)を撰(えら)びて特(たの)みおくべし
拙(つたな)き医者(いしや)は妄(みだり)に無益(むやく)の薬(くすり)を與(あた)へて害(がい)を
なす事などもあるべし
○難産(なんざん)にて久しく生(うま)れざる時の薬
一 難産(なんざん)にて久しく子の生れぬ時は雲母(うんも)の
粉を温酒(あたゝめざけ)にときまぜて口に入るべし忽(たちま)ちに
生(うま)るゝ事妙なり又方(またはう)
当帰(たうき)《割書:三匁》 川芎(せんきう)《割書:一匁》煎(せん)じ用ゆ胞衣(ゑな)おり
ざるには冬葵子(とうきし)をくはへあと腹(はら)痛(いた)むには延(えん)
胡索(ごさく)を加(くは)へ気(き)のぼりふる血(ち)下(おり)ず気(き)を失(うしな)ふには