翻刻
所(ところ)の物(もの)なり此(この)物(もの)動物(どうぶつ)の腐敗(ふはい)に於(おい)ては強半(きやうはん)
悪臭(あくしう)を発(はつ)する而已(のみ)にあらず其(その)質(しつ)をして速(すみやか)
に柔軟(じうなん)ならしむる者(もの)なり故(ゆへ)に分解(ぶんかい)生来物(しやうらいぶつ)の
為(ため)には迅速(じんそく)なる経過(けいくわ)を促(うなが)す者(もの)なり
又(また)別種(べつしゆ)なる腐敗(ふはい)の生来物(しやうらいぶつ)ありこれ殊(こと)に水(すい)
中(ちう)にありて腐敗(ふはい)する諸物(しよぶつ)に見(み)る所(ところ)なり即(すなはち)
泥沢気(でいたくき)〈炭水気(たんすいき)〉と名(なづ)くる所(ところ)の気(き)なり動物(どうぶつ)諸(しよ)
質(しつ)の内(うち)には必(かならず)少許(せうきよ)の硫黄分(いわうふん)を含(ふく)む者(もの)なり
此(かく)の如(こと)き質(しつ)あるときは硫水素(りうすいそ)を生(しやう)する者(もの)
なりこれ則(すなはち)敗卵(はいらん)に於(おい)て著(いちじる)しく験(けん)する所(ところ)な
り又(また)燐分(りんぶん)を含(ふく)むの故(ゆへ)を以(もつて)燐水素(りんすいそ)を生(しやう)ず魚(うを)
の腐敗(ふはい)に趣(おもむき)て燐光(りんくわう)を発(はつ)するも恐(おそら)くはこれ
か原因(けんいん)なるべきかこれ甚(はなはだ)疑(うたが)ふべき一案(いちあん)な
り
自余(じよ)絶(た)へば虫蛆(ちうそ)を生(しやう)じて平常(へいじやう)保存(ほうそん)すべき
の時限(じげん)を短縮(たんしゆく)ならしむ其(その)分解(ふんかい)生来物(しやうらいぶつ)はこ
ゝにこれを論(ろん)じ及(およ)ぼさず
工巧(こうかう)の目的(もくてき)に於(おい)ては諸物(しよぶつ)の正(まさ)に腐敗(ふはい)を起(おこ)