翻刻
【右丁】
かけたてられ散々になつて引て入る数万騎の軍勢たゝ一
所に集て柵より外に出も得す只遠矢に射とれやとて三
千挺の鉄炮を一面にたてならへてそはなつたる織田殿
はるかに大久保兄弟か軍するやうを御覧して家康の手
の戦かたきみかたいつれ隙ありとも見へす其中に金の蝶の
羽腰にさしたる浅黄の幟に黒持附たる敵かと見れは
味方に成みかたと見れはかたきになりかたきみかたのさかひ
さたかならす誰かある見てまいれと宣ひて徳川殿の
御陣に馳来てかくと申徳川殿きこしめしてあれは家
康か侍蝶の羽は黒餅か兄大久保七郎右衛門忠世黒餅は同
【左丁】
く治右衛門忠佐とて蝶の羽か弟そと仰けれは織田殿此由を
聞玉ひなにみかたと申やさん候と申すあつはれ大剛の
兵かなかれら兄弟に似たらんは信玄か手の者にはいまた
候はぬとそ宣ひけるさる程に馬場美濃守信春織田殿
の陣にむかつて手の者多く打せてひく真田兄弟入か
はれは土屋も頓ておしつゝき柵の木引やふつていらんと
し皆鉄炮にあたつて死す山縣すてにうたれて後武
田左馬助信豊をさきとして甘利原跡部小幡望月安中
のものとも一勢〳〵入かわり徳川殿と戦てうたるゝ
者数を尽したすかるもの多からす南北のかた