翻刻
【右丁】
にはいかてかゝる身とは成ぬへきたとへ申披へき旨ありとも大
御所すてにかくれさせ給ひ今に至て御ゆるし蒙りなは大御所
きこしめしあやまらせ給へはこそ当代に御ゆるしあれと世の
人申候ひなんさらは御身にとつては将軍家の御父のあや
まちあらはせ給ふにこそ候へたとへ下をあはれみ給ふ御めぐみ
こそ深からめなんそ御孝行とは申べき忠隣又おのか罪
まぬかれんとてさしも当代の大祖にて終に御あやまりな
るべし御事を世の人々にうたはしめ将軍家の御不孝をそ
すめまいらせん事更に本意にあらすとても身はかくなり
はてゝ侍るおやたゝ此まゝにて候へけれといひしかは直孝
【左丁】
かさねていひ出すへきこともなく感涙にむせひたち出
しか忠隣つゐに配所にてはかなくなるこそあはれなり
《割書:忠隣か罪かうふりし事さたかに知る人なし故に世の人色々の節おほし一ツも》
《割書:信をとるにたらすたゝし駿府政事禄創業記幷に考異等の実記を按するに》
《割書:謀反の讒言あるよし記せり今かの異記の説をとつてこゝに注す〇慶長十八年の春山口》
《割書:但馬守か所帯を没収せらる其よしをたつぬるに大久保相模守か妻は石川日向守か娘也相模守》
《割書:我か妻の姪なれは日向守男長門守娘養ふて山口但馬守か子に嫁したり将軍家此よし》
《割書:を聞召て御気色よろしからす其故は石川長門守か男其行みたりがはしきによつて近年》
《割書:御勘気かうふりしをそれか妹を御旨をもうかゝはす但馬守子息の妻にむかへし事上を》
《割書:ないかしろにする条一かたならずとてかく罪に処せらる山口一通の書をさゝけてうつたふ》
《割書:る旨あり相模守大に怒れりと云々山口か書の旨又相模守かいかりし事なにことゝいふ》
《割書:事はつまひらかならす又相模守か孫女の夫里見安房か罪状を按するにいはく相模守》
《割書:かもとに足軽の兵ならひに兵糧馬の飼料をおくりしと第一の条にのせらる思ふにこれは山口》
《割書:か書をさゝけ相模守かいかりし時にや相模守かいかりしは山口に対していかりしやうに見》
《割書:ゆ上にむかひまいらせし事とは見えすさて其後ことしの冬大御所駿河ゟ江戸へならせ》
《割書:給ひ程なく江戸をたゝせ給ひて相模の国中原の御旅舘に入らせ給ひし夜馬場八右衛門》
《割書:といふ老翁御舘へ参りて本多佐渡守に申事あり此馬場といふものはもと甲斐の武》
《割書:田か士年ころ勘気をかうふりて相模守にあつけられて小田原の城にあり相模守に我》