翻刻
【右丁】
智なき故也人は万物の霊として自ら口腹のためにその
身を殺すは他の魚介鳥獣に及はさるかことし可慎
事ならすや
○豊城云肉食の事今時我国に四足の物を食すれは
穢るゝよしに忌むはいつよりの事なるか仏法の盛
になりて戒をたもつなと言事よりして神前にも
いむ事と成しなるへし日本紀をはしめ古語拾遺
なとにも肉食の事見え又延喜式に三ケ日歯かた
めの供御に鹿肉【宍は肉の譌字】猪肉あり類聚雑要抄には鹿肉
代用水鳥猪肉代用雉と有其ころは改りたる成へし
【左丁】
今も春日若宮の祭には狸百疋兔百疋雉百羽を掛備へ
諏訪の神事にも獣頭を数々贄とす釈奠の祭料
にくさ〳〵の獣類用ゐられたるなと今もかはらぬにや
火串さして鹿を射しも食用のためなり兔は今
将軍家の御吉例に奉るなと三百年前まてさのみ
禁しられたりとも思はれす太平うちつゝき料理も又
さま〳〵たくみを尽し魚鳥も多く成行にしたかひ
人も麁食して力を労するもの少く安座して滋味
を好むよりおのつから四足はいむ心もおこり仏法因果
の説なとになつみ勇気のおとろへこし治世の一癖