翻刻
【右丁】
○菓実の類酸味有もの清涼の功有もあれと熟菓に至
りては甘味多く成行害をなすも有一般には言かたし
栗なとは粉類にして停滞物也又柿の渋多きを酒
樽に込て渋をぬき甘くして食ふ是等直に酸敗し
たるものなり食ふへからす
○水の事爰に挙るは清浄の井水を言也今江戸の市
中に用うる井水は川水を引たるにて澄るときはよし
といへともやゝもすれは濁り又水上に汚物も流れ来る也
又所によりて堀立る井水も水近きは井戸側の外に腐
たる水なと流れこむも有これらもよしとして多くのまは
【左丁】
害有へし呑水は井をえらひ用うへし養生訓にも此事は言り
○茶もまた一般によしとはいひかたし宇治の茶製を見るに末
茶はいふもさらにて折物なとの上茶はいかにも清浄にして
深切に精製するもの也下茶の晩茶といふに至りては飼葉に
ひとしく道端の土間にならへ出して馬のいはりも散かゝ
るさまなりこれらの下茶は心すへし又最上の茶は芽出
し葉のみにしてテイネ(━━━━━━)の質多しといふへしこれか為に
精神を衝動しいぬる事あたはすされと茶には酒の
如き精神を狂迷する害なしといへは不寐にして精
神のつかるゝのみなりよりて又余り最上の茶は害あり