翻刻
【右丁】
極寒の頃は寒度無度より廿余度下る事もありと言
る寒さなりときけは中々おろかならす火酒等にて
寒を凌きぬれは春になりて腫病を煩ふといへり
運動を聞くに武芸角力力押なとをし或は雪中
犬に引せて雪舟【注】に乗百里外の野山を巡見し山
中木陰に野宿し明れは又雪舟に乗て運動し
ぬれは汗して寒を忘ると云かく運動して凌く
ものは春に成ても無病壮健也とまのあたり試ていふ
なりされは人体運動にましたる養生は有へからす
武芸角力のこときを実動と云駕輿舟の如きを
【左丁】
虚動といふ虚動は筋骨を強くするにいたらす実動
をまことの運動養生の専務とすへし
或人云此書衣食住共に尽したり可惜は婦人運動の
法又所せき上たる人閉居文学の人等行住坐臥の体の
心得かたなとも有たしと云りいかにも婦人つねの心かけ
妊娠中出産のゝち小児の養ひかたまた上たる人
閉居の人の気皃の調かたのをしへもあるへかりしを養
生訓にならひて其大かたをとかれたれはこれらの説は
もれたり追日付録に委しくしらへてをしふへけれは
そを待給へとこたへおけり
【注 ゆきぶね=雪上で用いる舟型をした橇(そり)。】