翻刻
【右丁】
事今人の常となりて軍陣に出立兵士といへとも心よしとせ
さるもあるへしよりて再ひまたさとさむ孟子に鶏豚狗彘
の畜その時を失ふ事なくは七十者可以食肉とある事は
童子も知る所にて唐には尊み用うる事いふ迄もなし我国
にも前にいつることく古語拾遺に御年の神の御子田人の
牛肉【注】を食ふをみそなはしてうらやみ給へるより御年の神
いかり給て蝗を其田に放ち給へは苗葉忽枯損したるを
謝し奉りて肉を備へて祭りしにより年ゆたかにさかえぬ今
神祇官に白猪白馬白鶏を以て御年の神を祭るゆゑむ也
としるされたり日本紀には佐伯氏か仁徳天皇に奉らんと
【左丁】
て兎我野の鹿を射しをみかとの此ころ夜毎に御物おもひ
ありけるをとかのゝ鹿のねになくさめ給へるには鹿なかすと
て御心にかゝりしをりなれは此事をあはれみ給ひて佐伯氏
を遠さけ給へると云り後に火串さして鹿を射るもみな食
料の為なる事明らか也といへれは又或人云ある雑書に
天武天皇四年令天下始禁獣食自非餌病不許輒【輙は俗字】噉世
因謂曰薬食と引書したるを見たりさる事ありやとなり
そは何によりて書しか正しき書には見えすよししからん
にもせよ既に薬食としてゆるすと云其後いくほとなき延喜
式に御歯かための供御に奉る事をしるされたるをみれはさる
【注 字面は「完」だが肉の意は無し。おそらく「宍」の誤字と思われる。また「宍」は「肉」の譌字、俗字であるので「肉」とす。】