翻刻
【上段】
【枠内】
稀痘神方
此神方は男女に限(かぎ)らす当歳(とうざい)より三 歳(さい)までの
小児(せうに)には実入(みいり)よき唐(から)の川練子(せんれんし)七 粒(つぶ)をゑらみ
臼(うす)にて搗砕(つきくだ)き土鍋(どなべ)にて水三 杯(はい)を入 濃(こく)煎(せん)じ
布(ぬの)きれに浸(ひた)し頭(かしら)より惣身(そうみ)のこりなく摺(すり)あらひ
其 布(ぬの)にてぬぐひ風(かぜ)のあたらぬ所にて乾(かはか)すべし
川練子(せんれんし)を砕(くだく)には鉄器(てつき)を忌(いむ)べし四五 歳(さい)の小児(せうに)は
九 粒(りう)に水五 盃(はい)を入六七歳は十五 粒(りう)に水七盃八 歳(さい)
より十 歳(さい)までは二十 粒(りう)に九 盃(はい)十一歳より十五歳 迠(まで)
は三十 粒(りう)に十五 盃(はい)を用ゆ洗(あらひ)やうは暦(こよみ)の中段(ちうだん)
除(のぞく)といふ日をゑらみ七 度(たび)洗(あら)ふ若(もし)五月 初(はじめ)より
八月 初(はじめ)までの内にてこれを行(おこな)へば功能(こうのう)ことさらに
妙(めう)なり其 余(よ)の月にても除(のぞく)の日を用(もち)ひて都合(つがう)に
七日 摺(すり)洗(あら)ふことにて毎歳(まいさひ)かくのごとくするにはあら
ざるなり此方(このほう)を用れば疱痘(ほうさう)を免(まぬがる)のみならず
諸(もろ〳〵)毒瘡(どくそう)にも染(そま)ざるなりたとひ疱痘(ほうさう)するとも必(かなら)ず
軽(かろ)きなるもしこれを信用(しんよう)なくば試(こゝろみ)に手足(てあし)の内
一所(ひとゝころ)あらひ残(のこ)し置(おく)べし若(もし)疱痘(ほうさう)いではかならず
其(その)所(ところ)に多(おふ)く聚(あつま)りよるべし
此方は唐土(もろこし)新安(しんあん)の呉春山(ごしゆんさん)といふ人三人の子いづれも疱(ほう)
瘡(さう)に仕屓(しまけ)たるゆへ城隍(とちかみ)の廟(やしろ)に祈(いのり)て霊夢(れいむ)に授(さづか)り
其後(そのこ)二人の子 此(この)神方(しんほう)によりて恙(つゝが)なかりし故(ゆへ)神効(しんかう)を
感(かん)じて世(よ)に此方を弘(ひろ)めらる其後(そのゝち)清朝(しんてう)乾隆(かんりう)二十四
年に呉義豊(ごぎほう)といふ人 楚国(そこく)在勤(ざいきん)の時(とき)疱痘(ほうさう)多(おふ)く
行(おこなは)れしゆへ此方を弘(ひろ)めて数万(すまん)の小児(しやうに)を救(すく)へりまた
蘇州(そしう)の桂香集(けいかうしう)といふ人 孫(まご)五人ありて此方(このほう)を用し
に両隣(りやうどなり)の小児(しやうに)まで病付(やみつき)たれども桂氏(けいし)の小児は免(まぬがれ)
しとなり是(これ)皆(みな)此(この)神効(しんこう)によるとぞ
長崎林魁梅卿譯并誌
此 除痘(ぢよさう)の法(ほう)は即(すなは)ち林氏(りんし)が施印(せいん)の写(うつし)也
猶(なを)此 法(ほう)の広(ひる)く世に流布(るふ)し林氏(りんし)の意(こころばせ)の
早(はや)く家々(いへ〳〵)に及びて又々 速(すみや)かに其(その)幸(さいわ)ひ
に与らんことをおもふものなり
安永乙未冬
【下段】
【枠なし】
軽痘奇方《割書:未疱瘡せぬ間は折々|此薬を用ゆべし》
○一二 歳(さい)の小児(こども)は南燭(なんてん)の実(み)十 粒(つぶ)甘草(かんぞう)一 分(ふん)水
八九 勺(しやく)三歳より九歳迠は南燭の実二十粒甘草
二分水一合五勺十歳以上は南燭の実三十粒甘草
三分水二合 右(みき)の分量(ぶんりやう)にて少は増減(ぞふげん)有べし何れ
水 三分(さんぶん)一減(いちげん)ずる程(ほと)に煎(せん)し服(のま)さしむべし痘(ほうさう)を
稀(かるく)にする事(こと)妙(めう)也《割書:僕(われ)》世人(よのひと)の難(おもき)痘(ほうさう)有を患(うれひ)て或(ある)
名家(めいか)に此方(このほう)を得(え)て試(こゝろみ)るに神功(しんかう)あり尤(もつとも)得(え)易(やす)き
薬品(くすり)なれば普(あまね)く世(よ)の人の為(ため)に記(しる)して施(ほどこす)而已(のみ)
○本草に南燭痘毒を解事不_レ見甘草小児の胎毒を
解の主治あり小児胎毒解する時は自ら痘は稀なる
理なるべし猶博覧の君子の考を待
○未疱瘡せぬ小児(ことも)には油(あぶら)多(おほ)き肉類(にくるい)椎茸(しいたけ)蒟蒻(こんにやく)
乾柿(くしがき)を忌(い)む小児 甘(あま)き物(もの)を常(つね)に多(おほ)く喰(くら)へば腹(はら)
中に虫(むし)を生(せう)じ疱瘡(ほうさう)の時(とき)害(がい)多(おほ)し○既(すて)に痘(ほうさう)を病(やむ)
時(とき)は悪臭(あしきにほひ)鯹(なまぐさ)き臭(にほ)ひ都(すべ)て穢(けがれ)を忌(いむ)可慎(つゝしむべし)
文化戊寅年春三月 泉州岸城宮東郊
【赤印 二個】
【枠内】
《割書:潤(じゆん)|身(しん)》貴妃花容香(きひくはようかう) 《割書:紅絹嚢入(もみのふくろい◻)| 一包價百銅》
此(この)花容香(くわようかう)は寔(まこと)に霊妙(れいめう)不測(ふしぎ)の神済(しんざい)なりゆゑに男女(なんによ)とも
寒暑(さむさあつさ)をいとはず浴湯(ゆあみ)の後(のち)是(これ)を身(み)に打(うち)ぬりて能(よく)すり
つくるときは第一(だいいち)不浄(ふじやう)穢(けがれ)を去(さ)り身体(からだ)を清(きよ)くし
女(をんな)は経行(つきのめぐり)のみぎりにても是(これ)を肌(はだ)にぬりて神仏(しんぶつ)の
御前(みまへ)にいづれば不浄(ふじやう)のとがめなし先(まづ)男女とも周(そう)
身(み)のあしき臭(か)をさり能(よく)肌(はだへ)に艶(つや)をいだし諸(もろ〳〵)の病(やまひ)をさり
暑中(しよちう)は中暑(あつけ)霍乱(くわくらん)風邪(ふうじや)等(とう)のうれいなし又 大人(たいじん)小(せう)
児(に)ともあせぼの出(いで)たるに是(これ)をぬりて速(すみやか)に是(これ)をいや
すこと妙(めう)なり此薬(このくすり)はよく精気(せいき)をめぐらすゆゑ暑気(しよき)を
去(さ)り汗(あせ)をおさめおのづから身(み)を涼(すず)しくせしめ又 湿(しつ)
気(き)をさる故(ゆゑ)かゆがりのうれひを忘(わす)るべし別(べつ)して脇臭(わきが)の
輩(ともがら)是(これ)を用ひておのづから療(りやう)ぜずしていゆる事 寔(まこと)に
神(しん)の如(ごと)し其(その)外(ほか)功能(こうのう)著明(ちよめい)なる事(こと)は用いて知(し)り給ふべし
《割書:本家|御免》製薬所《割書:大阪淡路町|心斎橋東へ入》 井上元亀堂 【刻印 元亀堂】