翻刻
【右丁】
馬㪍(ばぼつ)敗鼓(ばいこ)の皮まで收(おさ)め蓄(たくは)
へ用(よう)を待(まち)て遺(のこ)す事なきは
医師(いし)の良(りやう)なりといへり古書(こしよ)
にのせざる一二の単方(たんほう)といふと
もその理(り)を暁(さと)りて用ひなば
効(こう)あらん病家もまた一味の草(さう)
薬(やく)なりとも医(い)の功(こう)を軽ん
ずる事なかれ病(やまひ)治(ぢ)しなば
万斤の貴薬(きやく)より勝(まさ)れり又
古書にありとも誤(あやま)りなき
にはあらじ尽(こと〳〵)く書を信(しん)ぜは
【左丁】
書なきにはしかずとかや皆(みな)医(い)
の明察(めいさつ)にして妙用(めうよう)を得(う)るに
ありしかるに古人(こじん)の方論(ほうろん)も
わか智(ち)の及(およば)ざるは捨(すて)てその理(り)
を求(もと)めずして古人の微意(びい)
をさとらずあるひは古人の謬(あやまり)
あるをも用ひて察(さつ)せず或は
単方(たんほう)和方(わほう)のごときは一向(いつかう)に
軽んじて察(さつ)せず常に臨機(りんき)
応変(おうへん)するは医(い)の妙用(めうよう)なり
と口に誦(しやう)するともその臨機(りんき)