翻刻
も仇(かたき)をうてばそれにてよし彼是(かれこれ)いふうちかたきに逃(にげ)ら
れては何にもならず所謂(いはゆる)百日の説法(せつほう)屁(へ)一ツとはこれ
らのたぐひをいふなるべし昔より我朝に鏡(かゞみ)とする処の
曽我兄弟(そがきやうだい)も工藤(くどう)の居間(いま)へふみこみ見るに前後もしら
ずの髙いびき兄弟かほ見合てにつことわらひ今これを
うつは寝鳥(ねとり)をとるにひとしとてたがひに姓名(せいめい)を名のり
祐経(すけつね)の枕(まくら)を足をもてはたと蹴上(けあげ)ければ左衛門祐経
おどろきむつくとおき枕刀(まくらかたな)をとらんとするところを兄弟
すかさず切(き)りこみ遂に父の仇(あだ)をうちとりしかども是 祐(すけ)
経(つね)と名のりあひて立派(りつぱ)にたゝかひたるにはあらず又元
禄年中 主君(しゆくん)の仇(あだ)を報(はう)ぜし何某も実は我ひとりにて
仇をさし殺し其上にて一味の者どもを引入れしと
きけりこれみな君父(くんぷ)の仇をうちたる英勇(ゑいゆう)忠臣(ちうしん)かくの
如しされば医(い)を業(ぎやう)とするもの何程 医論(いろん)にたけたり
とも薬がきかず病が愈(なほ)らざれば一向に其 詮(せん)なし君
父の仇はかたきをうてばそれにてよし医者も病が愈(なほ)
ればそれにてよしされば余がいふ処の胡麻の論も其理
にあたるかあたらぬかはしらねど今日まで人毎に喩(ため)し
試むるに其益甚大なれば深く論ずるにおよばず是
則 実地(じつち)の論なり心ある人 等(ら)は製しおきて日毎(ひごと)に