翻刻
ひにて少しづゝにても貯ふべきことなり日にほして
袋(ふくろ)に入おくべし又寒中に氷らせてたくはふるも
よく上毛の在(ざい)などにては四月ごろより七月ごろ迄
は蚕(かひこ)にて農家殊の外 世話敷(せわしき)時節(じせつ)ゆゑ豆腐をこし
らへるものなどなければ各 雪花菜(から)を日にほして袋
に入れおく所ありおのれ先年草津へ湯治せし時
神山(かみやま)といへる村へ止宿(とまり)けるに六月の頃なりしが味噌の
溜(たまり)を煮(に)えたて水を割(わ)り其中へほしたる雪花菜(から)を
いれ巻藁(まきわら)にさしたか河鹿(かじか)をぬき焼直(やきなほ)してから汁の
内へいれ煑て出しゝが其味はひ中々よき物なりから
をほすには手にて能々しぼり水気(みつけ)をとりてほすべし
左なければ急に干(ひ)あがらぬものなり風のある日は忽に
ひることあり
○巻藁(まきわら) 《割書:江戸にていふ弁慶(べんけい)のことなり田舎にて魚の焼たる|を指おくわらをたばねたるものなりこれをべん》
《割書:けいといへるは七ツ道具をさすといふよりいひはじめ|たる俗語と見えたり江戸にてはしらぬ人もまたあ|れば図をいだす》
○河鹿(かじか) 《割書:此魚も江戸にては知(し)る人稀なれば図をいだす山川|の流れや石川に住む魚なり上州辺の川には所々住め》
《割書:り形は魦魚(はぜ)ににて味ひははぜにまされり取立(とりたて)を魚田(ぎよでん)|にするときは鰻(うなぎ)にひとしく至て美味なりさて河鹿|は水中にこゑあることを前々より論ぜりいとおもしろき|ことにてなくとなかぬの論/紛(ふん)々として今にわからず|余前に議論あれ共短紙につくしがたくまた此書に》