翻刻
朝は粥を炊(かし)ぎ昼夜は割麦を食すべし事を解(けさ)ざる族(やから)は
麦飯はぶつ〳〵して腹内に入りてこなれわろしなどいへる人あ
り笑ふべきの甚しきなり阿蘭陀(おらんだ)人などは常に米をき
らひて麦のみを食するも是米よりは却て麦のかた人身
をやしなふによければなり米は粘稠(ねんてう)して滞(もた)るゝ気味あれ共
麦は疎通(そつう)にして粘稠の気薄しされば米は糊に煮て用
ふれ共麦は糊にはならず是にて粘(ねばる)と粘らざるとを知るべし
粘る物は人身に害あること枚挙するにいとまあらず其論短
紙の尽処にあらざれは爰に略す今大病人にひね米を粥と
なしてくはするも粘稠の気うすきによりてのことなり然るに
今年たま〳〵米穀払底なればやむことをえず甘藷粥(さつまいもかゆ)を食する
も畢竟は宜きことにあらず芋類は惣【総】てねばりつよき物ゆゑ
渾身(からだ)に害あり何ほど飢(うゑ)をしのげばとて毒になるものを食し
ては益なきことなりさはあれ大 飢饉(きゝん)にもいたらば是非なきことな
れば止ことを得ず食して可なり今のうちは甘藷を食せずとも
外に種々の食物あれば何にても見たて粮(かて)となすべし割麦
をたへず食すれば体の薬にして少も害にならず又折々
は豆腐の糠(から)を交(ま)ぜて食すべしこれも甚薬になりて腗胃(ひい)
を健(すこやか)にして宿酲(しゆくてい)【醒は誤】をさるものなり雪花菜飯(きらずめし)の炊(た)きやう末に
いだす各用ふべきことなり麦を食し糠(から)を製して命をつなぎ