翻刻
【右丁】
ものまう【注】はふてうちへいれは。長者はおり
ふし、ゆあみしてありけるか。其事(そのこと)をはり。
立出(たちいて)たいめんあるに。にらみの介か引(ひき)あはせ
竹斎か。弁舌(べんぜつ)ふるなもかくやと覚(おほえ)たり。かゝ
りける所に。長者とふていはく。なとそれほと
よきさいかくを以(もつ)て。療治(りやうぢ)もつはらにはなき
ととへは竹斎こたへていはく。我(われ)りやうぢをせ
さるにあらす。たゝ果報(くわほう)のほとこそつたな
けれ其ゆへは。はしめて大 病人(ひやうにん)にあひ。やう〳〵
くすりもまはり時分(しぶん)には。かの病人の一 門(もん)
【左丁】
我ふるかみ子に。もめんはおりのよそほひ
を見ては。くすりのまはるか。又さもな
きといへるは。きんみもなくあの。やぶ
くすしか何(なに)をしなしてんや。たうとい寺(てら)
は。門(もん)から見ゆるとこそいひならはせり
へたなればこそ。あのていなりとて。かの
けんのはおりに。あんだのりものをのま
するのみならす、今まてのやふくすしの薬(くすり)
ちかひせぬこそ。うれしけれなといふうちに
大かた我なをしてをきたる病(やまい)なれは一二ふく
【注 「物申す」の略。他家を訪問する時に使う挨拶の言葉。ごめんください。】