翻刻
【右丁】
思ひしりなから。猶(なを)きのふけふとはおもはさり
けりなと。くときあへるも。にくからぬものから
むねつぶるゝわざにこそ。ひとりもあらは
こそ。としころなれぬるあいたに。壱人のお
の子ありし。其 名(な)を竹 若(わか)と申けるか。ふう
ふのなけきあへる。其(その)けしきを見て。いかな
れは。二所(ふたところ)はかくなけき給るそなといひて
たはこの具(く)に火(ひ)いれるなどして。おさなき心(こゝろ)
にも。ちゝかきけんをとるをみるにもたは
こより猶けふりあへるむねのうちなりや。女(をんな)
【左丁】
はとてもはや。そひはつ【添い果つ】へきちきりにも
あらし。かしらをろし仏(ほとけ)につかへ侍(はんへ)らんとて
すてにもとゝりはらはんとするを。竹斎
きもたましゐもきえはつる心ちして。とん
てかゝりしゐてとゝむるを。おさな心にはふう
ふいさかふとやおもひけん。たれ〳〵はおはせぬ
かあれとりさへ【注】給へなと。なけきあへるこそ一
かたならぬ事とも也。やう〳〵竹斎此事を
せいし。大いきつきてあるあいたに。にらみの介は
我屋に有けるか。上洛(しやうらく)の談合(たんかう)をもせはやと
【注 取り支え=仲裁する。】