翻刻
【右丁】
みやこへかへりて後。いかなる人とか。ちきりを
こめん。とみさかへなは。つたへきゝたりとも
うれしくあるへきなと。思ひしれと。また
其にきはしきかたに。ひかれて我事 忘(わす)れ
給はんなと。あらまし事【注①】思へるもわりなき
や。さて立出物こしより。にらみの介にあひ
侍るもいとはつかしき。にらみ竹斎をいさめ
奉(たてまつ)るはむかしより。此 道(みち)にまよふはつねの事
なれと。あるひは其 家(いゑ)とめる人か。または其
身のやんことなきつかさくらゐに。のほれ
【左丁】
る人こそかゝる。あた〳〵敷(しき)には。かゝつらへなと
からのやまとの文(ふみ)のことを引(ひき)て。とやかく。う
しろみいふは。はしはたゝすといへとも。猶(なを)さし
あたりたるやうにて。むねつふるゝわさ也
竹斎もにらみは。つよくいさむる。又 今度(こんど)
云(いひ)をきたる事あれは。せんかたなく。たゞ今(いま)
こゝに鼻(はな)かみをわすれ侍れは。とりてまかり
帰(かへ)らんなとかつけ事【注②】いふを。にらみもそれと。す
い【推】しなから岩木(いはき)ならねはだまさるゝかほせる
もゝのなれたるわざにや。竹斎はうちへ入 今日(こんにち)は
【注① 前もってこうありたいと願っていること。】
【注② かづけごと=他の事を口実にすること。】