翻刻
【右丁】
急用(きうよう)あれは上(のほ)りまへにまたこそ来(きたり)候へし
といひすてゝ。にらみとつれ立。旅宿(りよしゆく)へこそ帰(かへり)
けれ。道(みち)すから竹斎よろつのはかなきもの
かたりの次(つゐで)に今(いま)ははや。竹わかといへるみとり
子さへありて。ひとかたならぬ。中なるなといひ
出れは。にらみの介さ様(やう)とは今(いま)まてゆめにも
しり侍らす。其御子のできさせ給ふこそ
よろこはしきわさなり。まことにはらはかり
ものたねこそといへるすぢも。世中におほけ
れは。随分(ずいふん)竹わかとのゝ事を。心にかけ頼み
【左丁】
たる人の末(すへ)の。たよりともなし。またわかとの
のさかへゆき給はん。後(のち)の事をいそかしく事
たらぬ中にも思ひ過(すこ)しせるこそ誠(まこと)に竹斎か
忠節(ちうせつ)の郎等(らうとう)にやと伝(つた)へ聞(きく)も殊勝(しゆせう)なり。それ
より。にらみいろ〳〵思ひめぐらすにも。今(いま)此
中(うち)にみやこへおさなひをぐし侍らんも
いかゝなれは。にらみか年(とし)ころ水魚(すいきよ)のまし
はりをなし候。ともの九 藤(とう)兵衛といふものに
藪若(やぶわか)をあつけける。また竹斎の思ひ人をはに
らみ理不尽(りふじん)に中をきらせ侍しにより。互(たかひ)