翻刻
【右丁】
ぜんとあきれゐたり。此よしをにらみきく
より、もとより物(もの)なれたるものなれは、いかに
もして此十かかゝかいへるのいつはりなるかまこ
となるかをしらんと思ひしはしあんしてゐた
りしか。実(けに)今(いま)おもひ出(いた)したりと、かの十かかゝに
近付(ちかつき)さきほとより仰(おほせら)るゝだん、一(いち)々 以(もつ)てたうり
にて候と内(ない)々わたくしも存(そんし)候へとも、てまへいそ
かはしきにとりまきれ失念(しつねん)仕(つかまつり)候、追付(おつつけ)わた
くし持参(ぢさん)仕 相渡(あいわたし)申さん、こなたは御かへりなされ
此 通([と]をり)御 心得(こ[ゝ]ろえ)給(たまは)れといふ、十がかゝこんほんいつはり
【左丁】
の事なればすぐにわたさせてはわがほねお
りたるかひなきとおもひ、もつともさやう
にては侍らんづれとも、こなたにはたひこしらへ
にて御てすきも有まじければ、わたくしに
給はれ慥(たしか) ̄ニ とゞけ参せんといふ。にらみの介此ふ
ぜいをやがてさとり、大のまなこをみひらき
をのれめは。かの方よりの使(つかひ)にてはなし。この
竹斎をたぶらかし、金銀をとらんとたくみし
なり、なんぢ女(をんな)の身ならずはきつと【注①】申つく【注②】
べけれと此 度(たひ)はゆるしをくといへれば。此かゝあ
【注① 必ず。是が非でも。】
【注② お上へ申し付ける。】