翻刻
【右丁】
すぎこしかたを見かへれは。こ高(たか)き山に堂(だう)
搭(た[う])の見ゆるは。いづれと打(うち)とへば。にらみの介は
承(うけたまは)り。しやうこは寺(てら)のかいさん所。いけがみ也と
こたゆるも妙(めう)な事にそきこえける。後世(ごせ)の
事をもしらぬ身はかなしきかなかは打わ
たり。主(しう)にをくれるにらみの介。里(さと)の名(な)に
あふとつかはとはしりまはれど。くたびれに
あとにだたりと下(さが)りぬる。ふちさはこはた
ひらづかや。大いその松風に心なき身にも
あはれはしられけるしぎたつさはの夕(ゆふ)ぐれに
【左丁】
さがみのふちうほどちかき。をとに聞(きゝ)ぬるい
にしへのとらがしるしのはか”所。遊女(ゆふぢよ)なれどもやさ
しくて。そがとのになさけ有。かのすけなり
もすりきれるふるきじゆずをはとり出し。
我等(われら)と同(おな)じ身のうへと狂念仏(きやうねんぶつ)になみだぐみ
をだはらになりぬれと。やく代(だい)とてもとらざ
れはくすりときくもういらうや。ほのかに月
もさしいづるはこねのごんげんふしおがみ此
おんてらのたから物に。かのときむねすけつ
ねをうちたりししやくどうつくりときく