翻刻
【右丁】
なれは。かのしやくとうには金けまじはらね
ばならぬといふなるに。ときむねはそがとの
といへどもよくそや。金けの有たるやなと
ふしんがれば。にらみ一しゆ
すりきり【注①】もしやくとうつくりせましやは
われらも金け二つぶら〳〵
其 外(ほか)の宝(たから)には。夜光(やくはう)の玉に。こまのつの九穴(きうけつ)
の貝(かい)あまのは”衣なと。かずしらす。見るがうち
に長者のうちにつかはれし。六 蔵(ざう)といへるも
の。竹斎 老(らう)にいふやう。さきほと其方に。かし侍
【左丁】
しあま道(たう)ぶく【注②】かへし給へといへは。心得たりと
てぬぎてかへしかくなん
かりものゝあまのは”衣まれにきて
やがてかへせはあとはすがみ子【注➂】
なと。いひ〳〵て足(あし)にまかするうちに。みしま
にこそはいたりげ【ママ】れ。かの明神(みやうじん)に参(まい)りつゝ。南
無や三島(みしま)の大明神(だいみやうじん)。ねかはくみやこにのこせし
老母(らうぼ)。または江戸にあづけをきし竹若(たけわか)か。行すゑ
守(まも)り給へといふうちにもま□人の事こそは
神(かみ)やうけずもなりにけんと。心はづかしうこそ
【注① 金銭などを使い果たして貧乏になる。財産をすっかりなくして素寒貧となる。】
【注② 雨道服=雨羽織に同じ。雨の時に着るラシャ・木綿などの羽織。】
【注➂ 素紙子=柿渋をひかないで作った白い地の紙子。安価なところから貧乏人が用いた。】