翻刻
【右丁】
さりながら□おもひいれには。まげてひ
ちりこをにごらすとも。思ふ心(こゝろ)のえにしある
ぬまづの宿(しゆく)に立(たち)やすらひ。ひま行(ゆく)馬(こま)のあ
しはやみ。かなたを過(すぐ)れはこなたにあたり
て。名におふふちあり。所(ところ)の人にたつぬれは。是(これ)は
むかし山王(さんわう)の住物(ぢうもつ)なるを盗(ぬす)みとりてかへり
しが。道(みち)すがらあまりおもきにたえずして
すてをき侍れは。しらなみのなにたちてかま
がふちといへるになり今 ̄ニ ふちのぬしとも
なり侍るとかたるにこそ。孔子(こうし)は盗泉(たうせん)の水(みづ)に
【左丁】
かはきをしのぎ曽子(そうし)は勝母(せうぼ)の里(さと)にいり給は
ぬとなんいへる事。ふと思ひ出され侍ればとて
もとをらでかなはぬ道(みち)なりとも。ちよこ
〳〵ばしりもせまほしきあたりになん有
それよりも。はらをすぎ。よし原(はら)といへるこ
そ。かのむさしのゝわかくさのつまもこもれる
町(まち)の名(な)を思ひ出(いた)すも。かりの世の猶ほんなう
の雲(くも)をこり。法性(ほうしやう)の月かけは。どこがとちや
ら見えわかぬ。やみのうつゝのうかい川。おもひ
わたるもかなしけれ。風ふきあ【濁点の位置がずれている。】げのはまより