翻刻
【右丁】
も田子(たご)のうらなみ見わたせば。をきには□
けきうらなみの。こぎゆくあとのしらな□【みヵ】
は。けに世の中のたとへにも。引てかへれる夕し
ほのしほたれ衣 袖(そて)さむく。かんばらすぐれは
ゆいのはま。むかし此所にてしゆめのもり久(ひさ)と
聞(きこえ)しさふらひ。今はの秋の小(こ)からしに。露(つゆ)の命(いのち)
もきゆるを。年(とし)ころたのみし清水(きよみつ)のをとはの
瀧(たき)のしら糸(いと)のなかれてふかき御ちかひの。臨(りん)
刑(きやう)欲(よく)寿終(じゆ〳〵)【注】念彼(ねんぴ)観音(くわんをん)の力(ちから)のほとのあらはれ給
ひ。其なんをのがれつゝ。すゑは山路(やまぢ)のきく酒(さけ)
【左丁】
に千とせのよはひをうけもち。一さしまひの
手も。一 天(てん)四 海(かい)のうちのみか。もろこしがはら
も此ところなる。さつたとうけをうちすき
けにこゝろうや此さかは。おやしらす子(こ)
しらずにわかれのみやうじんかへりみる
きよみかせきのせき守(もり)も。戸さゝぬ事はさて
をきぬ。今は戸さへもなかりける。それより
も宿(やど)をかり。里(さと)の名におふねつおきつもの
おもふ身(み)は秋の夜(よ)を。百ばい長(なが)く覚(おぼ)えつゝ
にらみの介と竹斎と。主従(しう〴〵)二人 断頭話(だんずわ)にはら
【注 観音経の一説と思われる。絶は誤記ヵ】