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【右丁】
にて有やらん。五こくをつくれはじゆくせず。
市(いち)にあきなへば。心のまゝならず。物ごとにげほ
うの下(くだ)りさかのやうになりゆき。今またのぼ
るもつらき老(をひ)のさか。つえにすかりてこれ
まてまいるも御客達(おきやくたち)の。御すがたもよしある
人のなれのはてと。たゞ一目にみまいらせ候
へは。我も此世の事にうみがき【注①】のじゆくし
をとふらふ【注②】。ふぜい也とうはもろともにな
み【「こ」に見える】たにしづみ【注➂】給へは。にらみも此事どもを
聞居(きゝゐ)てさめ〴〵とこそなきゐたり。やゝあ
【左丁】
りてなみだをおさへ。いやとよ【注④】あるじの人々
よ。昔(むかし)大 唐(たう)の一 行(きやう)阿闍梨(あしやり)といへる名僧(めいそう)は。む
しつのとがにをかされ。日月もおかまぬ道(みち)にな
がされ給ふを。諸 天(てん)【注⑤】これをあはれみ給ひて
九ようのほしのひかりを現(けん)し給ふ。阿闍梨
よろこびのあまりに右(みき)のゆびをくひきり
ひだり衣(ころも)の袖(そて)にうつし給ふて、末世(まつせ)の衆生(しゆじやう)に
しらし給ふとかや。これみなせんぜ【注⑥】のかいきやう【戒行】
のする所(ところ)なりとかたれは。をんな聞(きゝ)ていふやう
こよひの雨(あめ)のさびしさに。われらかむかし
【注① 熟柿=熟した柿の実。】
【注② うみがきの熟柿を弔う=似た境遇のものが相手を慰めることのたとえ。】
【注➂ 泣き臥し。】
【注④ いや、とんでもない。】
【注⑤ 天上界の神仏たち。】
【注⑥ 先世。前世に同じ。】