翻刻
【右丁】
にらみきゝて。もつともおほせはさる事なれ
どもさりなから名馬(めいば)はたらいの間にふせ
とも。つねに千 里(り)の心ざしありといふなれ
ば。ひたすらとこそのそみける。をんなも
さすが岩木(いはき)ならねば。一 間(ま)所に立かへり。かざり
もあらぬ一おもてとり出し。みねの春風かよふ
らし。いづれの尾(お)よりとすががけば。空ゆく
かりもかへるべし。其 後(のち)かるくひねりて。ゆる
くをさへはしめは霓裳(けいしやう)。後(のち)は六 幺(よう) 大 絃(けんは)
嘈々(さう〳〵として)如(ことし)_二急雨(むらさめの)_一 小 絃(けんは)切々(せつ〳〵として)如(ことし)_二私語(さゝめことの)_一かのこゑなきと
【左丁】
きは。なをなさけありとや。かくときうつ
るまに。鶏鳴(けいめい)あかつきをときなへば。いつも
名こりはつきせねどなをかきりあるた
ひのそら。あけゆくよはともろともに。みや
このかたへおもむくにも。心はあとにとまり
ぬる。もしまたみやこがたへものほり。もの
したまはゞ。かならず御たづねにも。あづかり
まほしけれなど。ねもころにちぎらんと。立
かへらんとしたりけれは。人の家(いゑ)にてはなかり
けり露(つゆ)をきまがふくさむらにぞおはしける