翻刻
【右丁】
にくやうをたのむ僧(そう)なかりしを地蔵(ちざう)に
またいのり侍しときいくかといへるあけが
たに、あつまのかたより来(きた)る沙門(しやもん)に。たのみ
きこえよと遊女のつげありしときに
つげにまかせほの〳〵あけに待(まち)たるに東(ひがし)よ
り一人の僧(そう)来り、かの僧をまちとり供養(くやう)
をたのみ侍りしに、この僧くやうとて、とくび
こん【注①】をとき地蔵のかほをなてしに里(さと)人
きもたましゐもきゆるはかりにあきれは
て地蔵を清水(しみつ)にてあらひものせしに
【左丁】
またもとのことくたゝりありしとき。いかなる
事ぞとて七日こもり【注②】なとせしつけに、かの
とくびこんにて供養せしは。紫野(むらさきの)の一 休(きう)とて
名僧(めいそう)なり。いかなればそのくやうをけがれ
たりとて、きよめけるそ、いそきみやこ
にのぼり、たつね来れとありしときまた
ものごとく供養(くやう)をたのみ侍しとなり。
されどもこれは、頓語(とんご)【注➂】の工夫(くふう)猶(なを)向(かう)上の一 路(ろ)
あるところにて凡人(ほんにん)のあしぶみもすまじき
ところなりとなをつゝしんてふしおがみ
【注① 犢鼻褌=ふんどし。】
【注② 七日籠り=七日間行う参籠。】
【注➂ 機転のきいたことば。】