← 前のページ
ページ 28 / 100
次のページ →
翻刻
よつて御悩(なう)平愈(へいゆう)の恩賞(おんしやう)として。世継御前を宿の妻になしくだ
され。剰(あまつさへ)天下の重宝平国の御太刀迄。当家にくだし給はる事。弓
矢のほまれ時こそと御婚礼の日限も。急に急き待もふけし
かひもなく。思ひがけなき路次(ろし)の騒動(さうどう)彼御太刀も行衛なく。世継ご
ぜんも身の上あやうかりしかど。金剛兵衛とやらんが働(はたらき)にてつゝかなく。
則かれが館(たち)に忍びおはする由さりとは案(あん)に相違の事。世間の人口
且はお家の大事。此上は草を分ても。ふたゝひ御太刀をさがし
出す手だてこそあ□【らヵ】まほし。座中の面々 心底(しんてい)を残さす評義
有て然べしと。いわせもはてず客侍口々に。いやたゞ外をもとむる
にも及ず。必定橘の諸任我君に将軍をこへられ。へんしうのうへ
多年所望の御太刀。当家にわたり無念とは思へ共。腕叶はねば一戦
迄に及ばす。御祝言の供先にて狼藉【左ルビ:らうせき】仕かけどやくやまぎれに
御太刀も。盗取たるに疑(うたかひ)なし。何条事か有らんきやつが館(たち)におし
寄。門も塀もふみやぶつて込入御太刀 詮義(せんぎ)する計。もし手むかひ