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ならひ太夫(だいふ)に二人の妻。少も心にかゝらぬ事。され共御太刀 詮(せん)
義の最中。梅の井とやらん先すかし返さんため。むかへとらんと口上
には偽つて。二通の文は同じぶんしやうに認(したゝ)めたり。兼々おとに語
ごとく。彼御太刀行廻つてもし諸任めが手に渡り。戸隠やまの
悪鬼 退治(たいぢ)。諸任にせんをこされては一人の恥辱(ちじよく)のみにあらず。
子々孫々ながく当家の瑕瑾(かきん)ならずや。さるによつて我ひそかに
やかたを忍び出。日本国中浦々島々海はろかいのたゝんづ程。陸(くが)地は
足をかぎりに都もとめ御太刀なきに極らば。一人戸隠山に分入
悪鬼の復中に葬(ほうむ)るゝか。首取て立帰るかけふや思ひたゝん。
あすや思ひ立べきと日をかぞへて闇然(あんぜん)たり。今日只今ほつそく
せん。世上は惟茂所労と披露(ひろう)し。留守を守つて帝都(ていと)のしゆご。
おこたり事なかれと御諚あれは横手を打。兼々さやうの仰
なれはかう申おもだかも御供とこそ存ぜしに。腰(こし)ぬけやくの
御留守思ひもよらずとかぶりふつてぞ申ける。いやさないひそ