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なれば。万事家内をつゝしめと。親子一間に引こもり。いつを昼(ひる)
共夜もすがら。ねもせぬ夢に時さるゝ心の〽内ぞ痛(いた)はしき。
汨羅(べきら)の潭(ふち)も水あせてしづみもはてずなからふる。帯刀太郎ひろ
ふさは心の外の誤(あやまり)も。運の不 祥(しやう)に近郷の国伊吹山の片影にしるべ
もとめし隠家も浮には。たへぬ。身の成はて。妻子に一め対面し
御太刀の有かを語。とにもかくにもならばやと。やつし果たるやふれ蓑
身をしる雨【注①】はいとはねど。月にもはづる夜るの笠。梅が小路の
我宿の門に入らんと立寄ばこはいかに逆茂(さかも)木【注②】打て釘付に戸
じめたり。帯刀はつと。眼もくらみなむ三宝。代々 朝家(てうか)のかためと
して。武勇(ぶゆう)の名を得し親 祖父(おうぢ)のしかばね。名字に釘をうたるゝ
かと《割書:やゝ》涙くみ立たりしが。今は何をか期(ご)すべき門前にて腹(はら)かき切。
腸(はらわた)つかんで扉(とびら)に打付しなん物と。どうと座を組刀をすはと
ぬきけるがいや〳〵。我心 底(てい)をしる人なく身の置所なきまゝに。狂ひ
死にしたりなんといはれんは。一子房若が恥辱(ちじよく)よん所なし。妻子に
【注① 身を知る雨=わが身の上の幸、不幸を思い知らせて降る雨。】
【注② 逆茂木=敵の侵入にそなえて、とげのある木の枝を立て並べ、結び合わせて作った柵。】