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やゝ有て帯刀。《割書:ヲヽ|》思ひかけぬは道理〳〵。妻子の手にかゝりしは。責(せめ)
ても天のめくみとしれ。かたるもめんほくなけれ共。某ふかくの名を
とる事 臆病(おくひやう)に似て臆病ならず。彼祝言の供先無二無三に
切かけしを。諸任がわざと心し。只一筋に御太刀を大事にかけ。
前後をわかず落程に物にさそはる心地にて。そこ共しら
ぬ山々を二三日はさまよひしか。漸(やう〳〵)夢(ゆめ)のさめたるごとく。始て驚(おどろ)く
かひもなし。此云わけは私ごと。五十歩をもつて百歩を笑ふとかや。逃るは
同じ逃る也。帯刀太郎広房かつらかひ拭(のこ)ふても出られずじがい
せばやといく度か柄(つか)に手をかけしが。日本 不双(ぶさう)の宝の御太刀。朽(くち)
はてん勿体(もつたい)なさ。浮世にまだ〳〵ながらふか心底思ひやつてたべ。
今は近郷の国伊吹山の麓(ふもと)。久作といふ土民(どみん)の家にかくまはれて
日を送る。此久作は御身もおぼへ有べし。先年家に奉公(はうこう)し。沢と
いふ腰元と密通(みつつう)して欠落(かけおち)せし。九郎といひしわつはかこと。むかしの
恩(おん)を忘れもせぬ。夫婦が誠頼もしく御太刀を預(あづけ) ̄ケ置く。《割書:サア|》片時(へんし)