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御とがめの塀(へい)は切やふり。見ぐるしき此ざまを御所の役人 検非違(けびい)
使(し)共に見付られ。恥に恥(はぢ)をかさぬるが房若つれてはやい
そげ。詞をそむかば生々世々妻でない夫でないともだゆれ
ば。《割書アヽ:|》是々何 ̄ン の詞をそむかふぞ。房若おじやと出んとすれど
後がみ。思ひ切かねすみかねあふみの国がどつちやら。伊吹山
とは何国ぞと。口にくと〳〵くどきごと涙が足を引戻す。房
わかもうろ〳〵と戸じめし門を押て見て。爰が明ねば
出られぬとかこ付泣こそ哀なれ。《割書:エヽ|》塀のやぶれがめに見へぬ
かぐどんながきめとしかられて。なく〳〵くゞる四つばいはてゝ親しらぬ
ゑのころ【注①】や。母もつゞいて出給へはなふ〳〵是々。とゞめをさいてく
れぬかとゞめをさせとゞめをさせ。《割書:イヤ|》もうそれはゆるして下され
かし。なふ曲(きよく)もない【注②】苦痛(くつう)させんといふことか。夫婦のよしみ頼む〳〵と
くるしめば思ひ定て立帰り。刀おつ取涙ながら日比ねんずる
観世音(くはんぜおん)。われ世の中に有らんかぎりはたゞたのめ。御 誓願(せいぐわん)あや
【注① 犬の子。いぬころ。】
【注② つれない。情けない。】