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御太刀を渡し二たび家をつがせてくれとの御頼み。其御詞にちがは
ず若君うろたへ給ふ体(てい)。帯刀様は 御 切腹(せつふく )に極つた。追ついでおく様も
お供せうとかけ出る。《割書:アヽ|》是て〳〵此久作もそうは見たがさりな
がら。此の嚚(ひす)ひ【注】人心語りの有まい物でもなし。殊に預り置た宝
の御太刀。彼橘の諸任とやら望をかけ。是からおこつたさうどう
念にも念を入たがよい。旦那の妻子に 極(きはま )れはもぐさのふくろに
隠(かく) れもない。久作都て御出なされう。惣じて 此事 隣(となり) かぎつ
て 隠密(おんみつ)。 ざは〳〵して近所にふしん立られな。 けさから【右:どふやら】もう〳〵と
頭痛(づつう) であたまがくだける。旅人はなし日はくれるとのうれん
はづし 看板(かんばん) 仕廻。見世かた付て 蔀(しとみ) をおろし一ね入して 汗あせ してくれう。
門口しめて用心しやと 頭巾(づきん) 鉢巻(はちまき) 高枕。こりや万とら。房若の
帯刀のと国人にいふまいぞ。ねむたそうなめもとじやだいてね
よふと引よせて。うん〳〵うめいてひつかぶるもめんふとんのうら 表(おもて) 。
背戸(せど) かどしめて女わざ。夜なべ取つく 行燈(あんどう) の。光 ̄リ もほそき忍び
【注 ひすい ずるい。心がひねくれている。】