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いとはれしに。夜寒(よさむ)を何とせんたゞ物恐れながらと打きせ〳〵。
我身は次の片角(かたすみ)に子の有中は男にも。常が丸ね【注①】をけふは猶
帯引しめてぞ卧(ふし)にけり。阮【既】燈(ともしひ)【灯】 半点(はんてん)して。三 更(かう)にともなふ鐘(かね)
の声。深夜(しんや)の雲に埋(うつも)れて。四方に人音しづまりたる。久さく
そつと起(おき)出そろり〳〵とあたりを見廻し。奥をのぞいてさし足
に雨戸の枢(くるゝ)かけかねを。しめて廻す帯刀女房が口に手を当。
鼻息(はないき)伺(うかゞふ)こせうの粉 薬研(やけん)鍔(つば)の二尺一寸するりとぬき。奥をさし
て入所をむつくと起(おき)て女房膝ふしにしがみ付ふつても引ても
はなさばこそ。片足とびにやの内を引ずり廻れはついて廻り。戸
棚(だな)の角にどうど引すへ是此ぬき身は何 ̄ン じや。熱気におかされ
た体でもない。お主様の寝(ね)所へ誰を切刀ぞ。《割書:ヤイ|》やかましい
音ぼね【注②】立な。《割書:エヽ|》しおふせて後にいはふと思ひしに。こりや太宰 ̄ノ
大弐諸任公より内通有。帯刀に預 ̄リ置平国の。宝の太刀
持参するにおゐては。領分(りやうぶん)伊豫(いよ)の国の内 桑村郡(くわむらこほり)三十町を。永代
【注① まるね=まろね。(丸寝)・・・帯も解かないで着物を着たままで寝ること。】
【注② 音骨=声】