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しらね共。地 獄(ごく)も此世に有そうなむくひがなふてかなはふか。
女房子かはいが定(ぢやう)ならは分別しかへて下されと。夫の膝(ひざ)にもたれ
ふし。声をたてじと我袖を口に。くはえてしめなきにかこち。くどく
ぞ不便成《割書:エヽ|》馬鹿(ばか)律義(りちぎ)な。仕 替(かへ)るふん別こつちにないわごりよ【注】が
分別出なをせとつゝ立はつきはなしよい〳〵そつちの分別極まれば
わしも思案極たと。膳棚(ぜんたな)の包丁(ほうちやう)追取我子の万虎引 起(おこ)し。
心もとに指あつれば《割書:ヤレ|》女め気ちがひめ。恨が有らは口でぬかせ。科(とが)
もせぬ子に刃物(はもの)を当。大事の子にけがさせたら堪忍(かんにん)せぬとね
めつくる。女房涙せきくれど。にくいながらも夫の悪事。高声も
せず。かこち泣。なふ科(とが)せぬ者は殺(ころ)さぬとは。御身も見ごとしつてか。
我子大事と思ふ程人の子は猶大事。殊に御 恩(おん)のお主の子殺
してそもや其 報(むく)ひ。我子にあたらで有物か此子がゆく末
お主の罰(ばち)。ういつらい報ひ見せうより一思ひに今 殺(ころ)す。皆御身の
悪心からお主と我子を右左の両手で殺と同じこと是。包丁と
【注 わごりょ(我御寮)=対等もしくはそれ以下の相手に対して親しみを持って用いる語。そなた。】