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思ふてかこなたの心の剣(つるぎ)ぞや。《割書:サア|》房若様から殺(ころ)しやるか此子から殺
そうか。生としいける身の上に命を大事とする故に。あつい灸(やいと)も
堪忍するくすりあきなふ魂(たましい)に。あくまが入かはつたか地ごくの迎ひか
ゆかしいか。むごい悲しい心やと声を立ねはめで恨む。うらみはおつと
思ふは主人歎一つを二筋に。こほす涙は組(くみ)糸をたぐり。出すがごとく也。
久作はつと得心(とんしん)【注】し。《割書:アワヤ|》そうじや誤た。お主は根本こちとは枝
葉。根さへかれねば枝葉は立。お主がもとじや合点したぞ女房共。
《割書:ムウ|》あまり急なおれ様 真実(しんじつ)の発起(ほつき)か。《割書:ハテ|》木石ならぬ久作。てき
めんの道理を聞て合点せいで能(よい)物か。未来迄たすかるいけん
女房と思はぬ善知識(ぜんちしき)と。手を合すれは嬉しさの猶も涙にむせびし
が。かまへて〳〵其心を跡へ戻(もと)して下さんな。されば〳〵。我身ながら
此心めがじゆうにならぬ。少も心に油断(ゆだん)させず善はいそげあす早(さう)
天。都へお供惟茂卿を頼むべし。御両人のかご二 挺(ちやう)お太刀持する
人足今宵からやくそくせう。御身もやすんで七 ̄ツに出立の用
【注 「とくしん」の誤記】