← 前のページ
ページ 67 / 100
次のページ →
翻刻
意しや。それなら早ふ戻(もど)つてや。《割書:ヲウ|》火の用心よふしやと門の戸明て
跡を又。さすとは見へしかたを波。足も音なく見かくれて縁(ゑん)の下
にて這(はい)入ける。見るよりぞつと身もふるはれ扨も〳〵恐ろしや。
得心(とくしん)も偽り。かゝる邪見(じやけん)の悪人に。夫婦の枕をならべたる。我も
さき世の因果(いんくは)の業(ごう)。破れかぶれ奥様にしらせ。いつそわれて出
よふか《割書:イヤ〳〵|》年月かさねし我夫。罪に落すも本意でなし。やるかた
しらぬ我身やと。むせ返り〳〵ふししつむこそむざんなれ。さては
簀(すの)子の下から突殺(つきころ)さふといふたくみ。《割書:エヽ|》罰(ばち)もむくひもかみわけぬ。
愚痴(ぐち)共悪共恐ろしや浅ましや。とかく我子をかはりに立我も
死んて見せたらは。恥入て悪をひる返しお主のために成へしと。おもひ
定て万とらをねながらそつとだき起(おこ)せは。昼の跑(あがき)に草臥(くたびれ)て
たはい性念(しやうね)も長 欠(あくび)。母にじつといだき付を。いだきしめ。先年万年と思へ
共さだまる業(ごう)は詮方(せんかた)なし。房若さまにかはつてそなたの命を母
にたも。時にはとつさまのどうよく心もひる返り。お主様へは御奉公