翻刻
薄(うす)けふり星(ほし)の光も朧(おほろ)夜や。じこく待 間(ま)
のかたねふりさはかぬ有様ふてき也。御 格子(かうし)たかく
明渡し内侍(ないし)命婦(みやうふ)のおもと人。上日の上達部(かんたちめ)
几帳(きちやう)の物見みすのつま。のぞきざゝめきあつ
はれゆゝしきころがらかな。此比召れし武士共
が誰か是に及ふべき。いか成 変化(へんけ)も恐(おそ)れんと
声もほのめくそらたき物。たてあかし【注】影(かげ)ほそく
すでに夜半(やはん)の時申し。宮中ふけて物すごし
刻限(こくげん)いたれば案(あん)のごとく俄に風おちいな光(びかり)
黒雲うづまき震動(しんどう)し。すはや御 脳(なう)と立さはぐ
惟茂ちつ共さはがす。雲間をきつとねめつく
れは形は四足のけだもの。つらは飛龍(ひれう)のごとく
ほのほを吹てぞひらめいたり。ひざ立なをし大
音(おん)上。 従(じゆ)四位下 上総(かんづさ)の修良(しゆれう)平(たいら)の朝臣(あそん)。惟茂
【注 立明し。たいまつのこと。】