翻刻
と名乗つて鳴弦(めいけん)し。矢取て打つがひよつひき
はなせば手ごたへして。ひやうはつたとぞ当つたる
ゑたりやおふと矢さけびの声。 蟇目(ひきめ)は御殿(ごてん)の
桧皮(ひわだ)にとまり変化(へんげ)はおめきくるしんで。おつる所を
茨菰(おもだか)次郎むんずとくんでしばしが程。ねぢあふ足
音大地もとゞろく計也。茨菰名におふ功(こう)の者ひつ
かついて。どうとなげふせ打物ぬいて。さし通きりさば
かれ首はちうにまひあがり。四足つばさもさん
らんしこくうにとんでうせけれは。御脳 平癒(へいゆう)忽(たちまち)に
風おさまつてはるゝ夜の。廿日余の月きよく
夜の明たるがごとくにて。宮中悦び声々にいたり
や惟茂したりやおもだか。こゝんぶさうの弓取やと
いさみ賑(にぎは)ひ給ひけり。関白(くはんばく)教通(よしみち)公御はしにたち出
惟茂が弓箭(きうせん)の徳。ゑいかん浅からず将軍の官(くわん)に任(にん)