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おとすが放(はな)さぬか。なふ命捨た此女 腕(うで)切らるゝをいとはふか。八年
九年つれそふて其様な根性(こんじやう)と。しらなんだが口おしい。いとしひ
かはいひ子を殺さば。邪見(じやけん)の角もおれふかと。かはいや万とらに
むだ死にさせた悲しやな。大事の子を殺させて男でもなん
でもない。あつたら月日をそなたの様なむごいこはい恐(おそ)ろしい。浅
ましいちく生とはだをふれて腹が立と。顔を見上つ見おろし
つ恨てにらむめの中に涙の。海を湛(たゝ)へけり《割書:エヽ|》あたやかましいと
ふり上て。右の腕(かいな)を肩(かた)口よりはらりずんと切落す。左の手は猶はなさす。
これ異国(いこく)の眉間尺(みげんじやく)【注①】とやら首を討れて。剣の先くひ切ふくんで本望を
とげしと聞。唐(から)日本も同じ人女で社(こそ[朱書き])有ふつれ。五たいの内一寸でもつゞいた所
に魂(たましい)こもり。此太刀は渡さぬと云より早く左の腕(かいな)切おとせば。飛ついて
紐(ひぼ)付にしつかとくひ付。うなりうめいて引たりけり《割書:ハアヽ|》徳利(とくり)子は見たれ共徳利
女房今 見始(みはしめ)。腕(うで)なしのふりずんばい【注②】とは此こと。すしな女の酢(す)徳利とつきはなして。
ほそ首水もたまらず【注③】打おとす。首は太刀にくひ付ながら両眼くはつと舞
【注① 古代中国の説話に見える勇士のあだ名。】
【注② ふりずんばい(振飄石)=竿の先につけた糸に小石をつけて遠くへ振り飛ばすもの。】
【注③ 水も溜らず=刀剣であざやかに切ること。】