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上り夫をおつ立追廻り太刀の鞘(さや)にて打立る。音は千声万声の 碪(きぬた)
をおくる夜嵐の空物すごき雲に入。つばさの有がごとくにてこくうにかけり
失にけり。かく共しらずおやこの人待かねて立帰り。内を見れば女房のむ
くろはあけに横たわる。なむ三宝とめもくらみあきれはてゝ立給ふ。久作
も半 狂乱(はんきやうらん)。《割書:ヤア|》愚人(ぐにん)夏(なつ)の虫。おのれらゆへに女房子をよふ殺させた。かたき
とらんと切かくるもふ叶はぬ是迄と。房若は縁(ゑん)の下。北の方は門の口逃
出れは追返し。はしり【注】の下竈(へつい)の影夢におはるゝ心地して。かくるゝに所
なく納戸(なんど)をさして逃入れば。久作二人を見失ひ爰や。かしこと尋るゝ足も。自(じ)
業(ごふ)自縛(じばく)の因果(いんくは)歴然(れきぜん)おのれが刀に切さきし。すの子の破れに両足
ぐつと踏こんたる。ぢごく落しと云つべしぬかん。ひかんともがきすがきのなはしまり。
竹のそげにて脚(すね)の肉(にく)熊手にかいて取ごとく。くるしむ所を下にかくれし
房若。守刀取なをし。股(もゝ)もこぶらも覚たり〳〵。覚ておれをよふぶつた
切たりそいだりつき通され《割書:ヤレ〳〵》いたいは〳〵。あんまりむごいゆるしてくれと泣
さけぶ。北の方走出 脇指(わきざし)もぎ取。切つついつの恨の太刀。房若も顕(あらはれ)出
【注 台所の流し。】