翻刻
せらる。汝は葛(かつら)原の親王五代の孫(そん)。先祖(せんぞ)よしもち
将軍が武勇(ぶゆう)の余慶(よけい)をつぎしゆへ。余五将軍(よごしやうぐん)と
なのるべしとの宣旨(せんじ)成ぞとの給へは。惟茂左右の袂(たもと)
をひろげ。烏帽子(ゑぼし)を地に付 拝賀(はいが)の体(てい)めんぼく
あまつて見へにけり。爰に伊豫(いよ)の国のむしや所
太宰(だざい)の大弐 橘(たちばな)の諸任(もろとう)遠侍(とをさふらひ)に宿直(とのゐ)せしがゑ
しやくもなくつゝと出。是々惟茂 御辺(こへん)将軍せんじ
あれはとてお受申は心へず。将軍の職(しよく)といつは武
官(くはん)の棟梁(とうりやう)朝敵(てうてき)を征(せい)し。非常(ひぢやう)をいましむるを以(もつて)
規模(きぼ)とす。変化は当分さつたれ共あれ見よ。蟇(ひき)
目の鏑矢(かぶらや)御殿の桧皮(ひわだ)に射(ゐ)付たり。御殿にさび
矢を射(ゐ)つくるは天子にむかつて弓引道理。朝敵の
なすわさ天理を恐れず。弓矢の法もしらぬ愚人(ぐにん)
武士の司(つかさ)と成べきか。かゝる御 僉議(せんぎ)もなくふか〴〵との