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翻刻
第五
賢者(けんしや)を得(ゑ)たる渭水の狩にたとへは恐れ紅葉 狩(がり)。宝剣を求(もとめ)しも
自の徳によつて也。太宰の大弐諸任。思ひ立旨有て戸隠山に
せこを入。我身は山の半腹にしきがはしかせ休らひける。せこの大ぜい
かけ来り昼前より只今迄。狩暮仕候へ共しゝ猿うさきは存もよらず。
野鼠一疋出申さず。弁当たへた手前も有いかゞはせんとぞ申ける。諸
任打笑ひ《割書:ヲヽサ|》其筈〳〵。しる通り当山には鬼神すんで人間をさへ取
くらふ。うさき狸をいけておかふか某山狩とは偽り。汝等にかくといはゞ腰をぬかして
一人も。供する者は有ましと思ひ山狩とは触たれ共。誠は鬼神 退治(たいぢ)成と
いふよりせこ共ふるひ出し。後を見ては前へ出前へ〳〵とこみ出ける。扨そろふ
たる臆病者。某数年願ひをかけし。平国の御太刀惟茂か拝領し。恋こ
かれたる世継御前迄かれに下され。かた落の御沙汰と思へ共。上へ恨も
申されす。そのうへに此山鬼神退治の勅諚。何もかもかれにしまけ
ては諸人につらも合されず。鬼神退治と有からは出立も有へきに。おさめ