翻刻
此様成(このやうなる)/煩(わつらひ)ありとてふところより宇治頼政(うちよりまさ)のう
たひ本をとり出し是見給へ人々/宮(みや)は五六
度迄/御落馬(ごらくば)にて煩(わつら)はせ給けるそれはさきの夜(ヨ)
御寝(ぎよしん)ならざるゆえなりとありさるによりてねさ
するなりとて則(すなはち)宮軍(みやいくさ)のかうしやくしていしよに
はつれたる療治(りやうぢ)はいたさぬと申せは扨も〳〵物(もの)しり
たる竹斎哉(ちくさいかな)とあたりの人/横手(よこて)を打て誉(ほめ)にけり
と〇此心を案(あんす)るに是又/唐(もろこし)の医者(いしや)も有病人に
のぞんて是はこれ〳〵の医書(いしよ)にもみへたりこれ
これの煩(わつらひ)なりとて書物(しよもつ)たてをいふてしらぬ俗人(ぞくにん)
に語(かた)る事ありそれが実(まこと)のほしへもあたらは
尤なるへけれ共/丸(まろ)き入ものに四角(しかく)なる蓋(ふた)をする
様(やう)にてされはいすかに嘴(はし)ほとくひちがひたる事
を声高(こゑだか)にかたる人おほし一/座(ざ)に能(よく)しりたり
人ありとてもそれは違(ちが)ひたるとてとがむる人も
なく心にては笑(わら)ふへけれ共/其(その)まゝにてをけは
しらぬ俗(ぞく)人は誰(たれ)々のより/合(あひ)尓てこれ〳〵の
仁(じん)は扨(さて)々/物(もの)しりと見へたりか様(やう)の書物(しよもつ)なと
引(ひき)て申さ礼しかあたりの衆(しゆ)/何(なに)とも答(こたへ)もなかり
きと誉(ほむ)る事/多(おほ)し是等(これら)の人をひそかに/笑(わらふ)
なるへし
去(さる)人かさけを煩(わつらひ)けり竹斎/薬(くすり)を/用(もちひ)けるか先々(まづ〳〵)
是(これ)々を食(しよく)し給へと飼(く)ふてよき好物(こうふつ)の/分(ぶん)を
書付てやる