翻刻
外をかさる事に付てむかし里うはく温公(をんこう)と云(いふ)也
世をいかり邪をねたむの格言(かくげん)に/榥(こう)と云ふ所に/菓(このみ)
を賣ものありよく柑(みかん)の持(もち)やうをたんれんして
寒時(さむきとき)より暑時分(あつきじぶん)まてくさらぬやうにもちなし
取出(とりいだ)せはも能々見事にてひかりかゝやき色なと
も金色(こんじき)のことなり是(これ)を市に出し置(をき)に/其価(そのあたひ)
常(つね)よりも十/倍(ばい)不となれとも見る人々あらそむ
我がち尓/買(かふ)なり温公(をんこう)も一つかふてわ里てみられ
たれはけふりの有やうにて其香もうまそふに
有けり去(さり)なから其中をみれはかれかはひてふる
綿(わた)のことくにて何のうまみ計しやうもなしそこ
にて温公(をんこう)よれはさて外は見事にて中には何も
なきをあやしんて問(とは)れけるは汝(なんぢ)か賣所(うるところ)のみかん人か
いと川て辺豆尓見て祭祝に奉し賓客(ひんかく)に/供(ぐ)
するとても里物なとにして祭(まつり)に/奉(たてまつ)り/賓客(ひんかく)の
まれ人に/馳走(りそう)すへきに此やうなる外/計(はかり)なるもの
をたまして売愚人(うるぐにん)の目くらのやうなるものを
まとはする事は扨(さて)々人をあさむく事の/甚(はなは)たひ
と云物(いふもの)也といはれたれは売(うり)もの笑(わらひ)て申には吾(われ)
是(これ)を志はさとする事/年久(としひさ)し此業(このわさ)にて吾身(わかみ)
を養(やしなふ)也/吾是(われこれ)を人尓/売(うる)に何ともいふ人もなき
にそなた計(はかり)/是(これ)を不足(ふそく)せらるゝか世上に/欺事(あさむくこと)
をなすものは多(おほ)き事しかも我計(われはかり)にてはなしと
いふしやうけい是(これ)を思ふに今いしやは 外をてろふて