翻刻
みかんを売(うり)ものゝことし病者(ひようしや)は愚人(ぐにん)の目も見へぬ
ものにして医者(いしや)の戮(りく)を受(う)けんかといへり
又/去人(さるひと)の御/内儀(ないぎ)身もちになりさはりやみのくせ
として青梅(あをうめ)をすかれけるか何とかしたり気ん
梅(うめ)かのとにつまりて呑とも入らすはけ共出さりけり
あたりの女房(にようはう)とも是(これ)を見て背中(せなか)のあたりを
七八百一くはん計(はかり)とづけ共出さりけりかくては
かなはしと竹斎(ちくさい)に見せけれは心得(こゝろへ)たりといふ
まゝに/火打袋(ひうちふくろ)よりかのじしやくを取(とり)出し口(くち)のは
多へ押当(をしあて)てひた廻(まは)しにまはしけれ共出されは心得
たりといふまゝにすいかうやくを取いたし口(くち)へひたとはり
にけり不となく梅(うめ)は出にけりしんへんかうやくの奇(き)
特(とく)には目(め)と鼻(はな)と一所へすひよせて眼玉(まなこたま)二三寸春
いあげたりこはいかなる事/哉(や)らんとおちやめのと
か驚(おとろき)けり竹斎(ちくさい)申けるやうは梅(うめ)のれうしは心
得たり目鼻(めはな)の事はしらぬといへはあたり邊(不とり)の者(もの)
是(これ)を聞腹(きゝはら)を立(たて)うてやたゝけといひけれは竹斎(ちくさい)
宿(やど)へにけにはかるとそ
扨も〳〵書(かき)たりけり竹斎(ちくさい)/前方(まへかた)かぢの弟子(でし)をじ
しやくにて手柄(てがら)をせしゆへに又とり出されける
此心/考(かんがふる)に皆医者(みないしや)の心にある事也いつそや誰(だれ)故
の煩(わつらひ)に此/丸薬(くすり)にて手柄(てがら)をしたるとて又/別(べつ)の
人にあたゆる事/多(おほ)し鉄(てつ)の目(め)に入りたると梅(うめ)の
咽(のど)につまりたるほと違(ちがひ)たる了簡(連うけん)はせいてつかひ