翻刻
まで行時分(ゆくじぶん)に/彼舩(かのふね)そこぬけたる所より水か
入て乗(のり)たるものものせたるものも跡(あと)へもならす
先(さき)へもゆかれす難儀(なんぎ)すると同(おな)し事▢れは未熟(みじゆく)
なるくすしをはそこぬけ舩(ふね)の/舩頭(せんとう)とこそいはれたり
扨又(さてまた)/病人方(びようにんかた)への教(をしへ)の鏡(かゞみ)とははいかなる事そと申せは
下手(へた)いしやにかれは竹斎(ちくさい)か井戸(いど)へ落(おち)たるおさあ
ひをれうぢするやうにて上(あが)るか〳〵と思ふ間(あいだ)に
死(しす)ることくなをるか〳〵と思ふ内に/死(し)する事のみ
なるほとにまつ/始(はじめ)にいしやをえらびてよきいしやに
かゝれしのおしへなり蕭京(しやうけい)の病者鏡(びようじやかゞみ)にも病(びよう)人ハ
先(まづ)いしやをえらふゟ肝要(かんよう)也とかゝ礼たり心を付へし
ある人の御/内儀懐妊(ないぎくわいにん)とこそ聞(きこ)へけれをりふし
腹中(ふくちう)を煩(わつらひ)うみちを下しけれは竹斎(ちくさい)此よしをみる
よりもすいがうをまるめて呑(のま)せけれは腹中(ふくちう)の
子胸(こむね)さきへすひ上にけりあたりの女房取上(にうばうとりあけ)ばく
是(これ)は大事の事かなとて皆(みな)人あきれけれは竹斎(ちくさい)
申けるやうは少(すこし)も苦(くる)しからずいで〳〵此煩(このわつらひ)のおこり
をかたりて聞(きか)せ申べし腹中(ふくちう)の子(こ)唐瘡(たうかさ)を煩(わつらひ)
候ゆへにその瘡(かさ)のしるか下るなれば扨(さて)かうやくを
呑(のま)せたるそと申ける取上(とりあげ)はゝの申けるはそれは
兎(と)もあれ角(かく)もあれ/生月(うまれづき)の事なればいかゝはせん
と申ける竹斎(ちくさい)申けるやうはさあらは唯今(たゞいま)うませ
て見せ申べしとて彼(かの)じしやくを粉(こ)にしてへそ
に付にけれはしきりにけこそ付にけり扨(さて)こそ例