翻刻
是は年(とし)の功(こふ)と云(いふ)ものか又は病功(びようこう)といふものか学(がく)
力(りき)ならして薬のきくといふも覚束(おほつか)なき事是も
不審(ふしん)也此二つの不審(ふしん)をあれこれの人に/問(とひ)ぬれ
と佐々里と埒(らち)の/明(あく)やうにとく人は希(まれ)なるがそ
なたは何(なに)と心得たるそと尋(たつね)られしそれかし若(じやく)
年(ねん)の/時分(じぶん)此ふしんを聞(き)く也是は尤(もつとも)の事/能不審(よきふしん)
にて候いかさま道理(たうり)あるへき事にて御座候さ
れ共さゝ里と埒(らち)の明(あく)やうには申かたし学問(かくもん)
ありても薬(くすり)のきかぬはいかさまきてんのはたらか
ぬゆへなるへし学力(かくりき)なくて薬のきくは年(とし)の
功か又は病功(びようこう)といふものなるへしと云(いゝ)て年を経(へ)
ぬれ共いか様道理(さまたうり)のつまりたる事こそあるらめ
とかた心にかけて年をおくり書物(しよもつ)をみるたび事
に気(き)を付(つけ)ぬる時に/有増(あらまし)ひらくる事なりとて
かたられしを書付(かきつけ)ぬる
先(まづ)いしやたる人は医書(いしよ)をよまひて叶(かな)はぬ事を
霊枢(れいすう)と云/書(しよ)の史崧(しすう)と云人の題(だい)に申されしは
それいしやは医書(いしよ)をよむにあるのみいしよをよ
みても医(い)をなす事のならぬ人はあるへしいまた
あうしいしよをよまずして医(い)をなすものはあ
るまひと書(かく)れし也是を見れは彼書物(かのしよもつ)を沢(たく)
山(さん)によみても薬(くすり)のはたらきのなきは医(い)を得(とく)
道(たう)せぬ人なり又/医書(いしよ)をよまひては何(なに)にもと
つひて医(い)をなすへきやほつてもならぬ道理(たうり)也