翻刻
様(やう)に用(もち)ひなす事のならぬは我心(わかこゝろ)の妙(めう)のはたらき
のなき人と思ふへき也/如此(かく能ことく)云ても前(まへ)に/云(いふ)/不才(ぶさい)
覚(かく)といふも妙(めう)の働(はたらき)なきと云(いふ)も似(尓)たものなり
いかやうの/物(もの)か妙(めう)のはたらきのなきといふへきや
何(なに)とぞ此/理(り)を通(つう)する事や有つきと思案(しあん)し
侍(はんべ)る所に/不斗(ふと)/存出(そんじいて)たる事あり粟田口(あはたくち)と云/狂言(きやうげん)
を見るに/大名(だいみやう)ありて太郎くはじやをよひ出し
都(みやこ)へのほりて粟田口(あはたくち)をもとめて来(きた)れと申付
らるれは太郎(たろう)くはしや畏(かしこまつ)たりとて都へ上り粟田(あはた)
口を買(かい)候はんとよばはりありけは大すつはものが
出合て田舎(いなか)ものと見たて立(たち)よりて粟田口(あはたくち)を
うらん買(かひ)候へと申太郎くはしやいでかはん見せ候
へと申せは則(すなはち)それがしにて候と申/太郎(たろう)くはしや
扨(さて)はあはた口と云は人にて有かといへは中(なか)々
の事人て有と云(いふ)/太郎(たろう)くはしやそれは又
いかなる事にてたからものにはなるそと云へ
はそのこと某(それかし)は粟田口(あはたくち)の惣領筋(そうりやうすち)にて唯(たゞ)一人
千ぎ万ぎのさきへ向(むか)へは雪霜(ゆきしも)に/湯(ゆ)をかくる
ことく歒(てき)かめつきやくするによりてたから物(もの)に
成(なる)といふ扨(さて)々それはいかさま宝物(たからもの)らしき物(もの)にて
候さあらは買(かい)可申とて求(もとめ)て帰(かへ)る大名待兼(たいみやうまちかね)て
太郎(たろう)くはしや粟田口(あはたくち)かふてきたか〳〵と御申
有太郎くはしやもとめてまいりましたと申
さらは見せよと御申あれは太郎くはしや御